白浄花の輝き編 番外編

ゲームセンターに行こう


1.

「「セナ! 一緒にゲームセンターに行こう!」」
 それはある昼下がり。
 文字の勉強に明け暮れている瀬奈の元に、灰色の髪をした双子が突然現れて言い放った。
 瀬奈は書き取りから顔を上げ、ぽかんと双子を見る。
「ゲーセン……あるんだ」
 まあ元の世界より科学が進歩しているのだ、無い方がおかしいか。
「ねえ行こうよ! セナ、行ったことないでしょ?」
「そうよ! あのお兄さんが連れてくとも思えないもん!」
 ヨルが言い、ヒルが賛同する。
 あのお兄さんというのは、多分イオリのことだろう。
「まあ警備隊員が率先して連れてく場所じゃないと思うわよ……?」
 こちらでもそうか分からないが、ゲームセンターイコール不良の溜まり場、もしくは気をつけないとカモられる場所というイメージしかない瀬奈は、苦笑いして答える。友達がいなかったら、出来るだけ近付かない場所だ。
「全くだな」
 冷たい声がして、双子が一瞬ドキリとした様子で顔を強張らせた。
 そろっと振り向くと、双子の背後にイオリが立っていた。半眼で二人を睨みつけている。
「うわあお兄さん、いつからそこに?」
 ヨルが恐々と訊く。
「丁度今、見回りから戻ったところだけど?」
 にやり、とイオリが笑う。――物凄く意地が悪い表情だ。
(うわあ……)
 怖い、と瀬奈は思い、双子を見る。
 双子はというと視線をさっと合わせると、立ち直ったのかいつものふてぶてしい態度に戻った。
「いやだな、盗み聞き?」
「お兄さんたら、趣味悪いわよ?」
「「サイテ〜!!」」
 最後は楽しそうに声を合わせる。
 イオリのこめかみがひくりと引きつるのはすぐだった。
「お前らな……。そんなに聞かれたくなきゃ、大声で騒ぐな。うっとおしい」
 そう悪態づくと、それで双子に構う気が失せたのか、ふいと受付の方に行ってしまう。
「ちぇ、つまんないの」
「ねー、もうちょっと違う反応してもいいのにねー」
 双子は残念そうに口を揃え、それからすぐに話題を切り替える。
「「で、セナ、行くよね?」」
 期待のこもった双眸が、キラキラと瀬奈をまっすぐに見つめる。
「え?」
 視線に気圧されつつ、瀬奈は首を軽く傾げる。
 ああ、そうだった。ゲームセンターに行こうという話だった。
「まあ行っても良いけど……」瀬奈は気まずげな顔になり、ぼそりと言う。「私、お金持ってないよ?」
 双子は両目をしばたいて、そのことに思い至った。
「いいよ、別に。僕らが出すよ」
「そうよ、私達、働いてるし」
 若干十二歳にして国立研究所の研究員の双子は、にっこりと笑う。
(何か……情けないお姉さんだわ私……)
 ちょっぴり落ち込む瀬奈だった。
 しかし、子供にお金を出させるというのも気が引ける。それが遊び代というのがまた。
「う……でも悪いわ。そうね、私は見てるから、あんた達で遊べば良いのよ」
 良い事を思いついて、瀬奈は表情を明るくする。
 双子は再び顔を見合わせ、考えた様子になる。
「それじゃあ趣旨が外れてるよな」
「うん……一緒に遊びたいんだもんね」
 二人はこそこそと言い合い、ふと受付で図面を開いているイオリを見る。その顔が、一瞬にやりと悪魔の笑みになった。
 ヨルはさっと部屋を見回して、ある人物の姿を見つけると、ヒルに頷く。ヒルはOKというように、にっと笑う。
 ――そして。
「「お兄さん、お兄さんも一緒にゲーセン行こう!!」」
 ダッとイオリに駆け寄って、年相応の子供のようにイオリにしがみついた。
「うおっ!」
 いきなり腰にタックルを食らい、机にぶつかるイオリ。
「ッテ! 何しやがる!」
 図面を叩きつけるように机に置いて、イオリは双子を引き剥がす。
「だって、僕らのお金じゃ遊んでくれないって瀬奈が言うんだもん」
「そうよ、てなわけで、お財布になってお兄さん」
 双子は、イオリにしか聞こえない程度の声でぼそりと告げる。
「はあ!?」
 思い切り嫌そうに返すイオリ。
 それに対し、双子は揃って無邪気さを装う。
「何で駄目なの、良いじゃん一緒に遊ぼうよ!」
「そうよ! 一緒に遊ぼう!」
 そして目をキラキラと輝かせて、イオリを見上げる。
「冗談! 何で俺が……」
 言いかけたイオリだが、そこで口を挟まれた。
「良いじゃないか、イオリ。子供の頼みくらい聞いてあげれば」
 フォールだった。彼は呆れた様子で言い、手にしたコーヒーを飲む。
「いやっ、でも俺今仕事中……」
 フォールはにっこり笑う。
「じゃあその仕事代わってあげるから、行っておいで」
「…………」
 フォールの笑顔と言葉に、イオリは頬を引きつらせて口をつぐむ。頬に冷や汗が浮かびだした。
「イオリ、行くよね?」
 もう一度にっこり微笑まれて、さすがのイオリも大人しく折れた。
「分かったよ、クソ……。行きゃあ良いんだろ」
 その言葉に、双子達はしてやったりと笑いあう。双子はイオリの弱点をカエデに聞かされて知っていたのだ。
 ――隊長のフォールにはとことん弱いということを。



2.
「何で俺がこいつらの為に……」
「「もう、いい加減あきらめてよ」」
 ゲームセンターに入っても、まだぶちぶちと文句をたれているイオリに、元凶の双子が口を揃えた。
(こいつら……!)
 イオリは怨念をこめて双子を睨む。
 そんなイオリを見て、瀬奈はゲームセンターによく出没する不良より不良みたいだと内心で呟いた。無論、声には出さない。だって、怖いし。
「あれ面白そうじゃない?」
「ほんとだ!」
 イオリの敵愾心満々の視線を華麗に避けて、双子達は興味を持ったゲームへと走っていく。
 その話題の反らし具合といったら絶妙だ。双子だけに息もぴったりである。
(うわあ、イオリ、いいようにあしらわれてるわ……)
 瀬奈は無言のまま、苦笑する。
 このような場にさすがに制服では来られなかったようで、イオリは私服姿だ。深緑のパーカに黒ズボンといういでたちは、さすが顔だけは良いだけあって似合いすぎる程似合っているのだが、歳の離れた兄妹に振り回される兄の図がしっくりきすぎて格好良さが半減してしまっている。
「セナ、こっちこっち。それとお兄さんも早く来てよ!」
「そうよ、お財布なんだから!」
 ガンシューターのようなゲーム機の前で、双子が早く来いと急かす。
「まじでたかる気かよ!?」
 それに、思わずといった調子で大声で返す。
「「うん!」」
 迷い無く即答するヒルとヨル。
 イオリは顔を引きつらせたが、諦めたのか大きく息をついた。
「おごってやるのは200リーズだけだからな!」
「「えー、ケチー!」」
 お金の単位がよく分からない瀬奈は、それがケチなのかと首をひねる。
 けれども、出させといてそれはないだろうと思ったので、双子をなだめにかかる。
「ヒル、ヨル、それがどれくらいのお金かよく分かんないけど、我が侭言っちゃ駄目よ。半強制的に付き合わせてるんだから。あんまり言うとイオリ帰っちゃうよ」
 元々後ろから見てればいいやと思っていたので、本当にイオリが気の毒だと思った。
(なんだかんだで、私のことに巻き込まれてるような……)
 予感というか、確信というか。そんな気がしてならないのは何故だろうか。


「「はーい」」
 瀬奈のなだめの言葉に、途端に“良い子”の顔になる双子の姿に、イオリはこめかみに青筋が浮かぶのを感じた。
(ハティナー狩りにとっ捕まってたのを、流れとはいえ助けてやったってのに、何だこの態度の差は。かなり納得いかねえぞ)
 小憎たらしい上、かなり腹が立つ。しかし隣の瀬奈が苦笑いしているのを目にして、自分の大人げなさが分かって気持ちを落ち着ける。
(双子じゃなくて、こいつの息抜きだって考えときゃいい。その方がいくらかマシだ)
 思えば最近は毎日文字の勉強ばかりしていたな、と思い至る。自分は相変わらず毎日機械いじりをしていて忙しいから、あまり気に止めていなかった。
 そうすると、それが最もな意見に思えて、ここで楽しまないのも馬鹿みたいに思えてくる。
(第一、俺の金だしな)
 一人納得したイオリだったが、双子に腕を引っ張られて連れてこられたゲーム機の前で、また我を忘れて怒鳴った。
「って、最初からガンシューターかよ!」
「「じゃあまずお兄さんからやってみよう!」」
 イオリの非難の声をきっぱり無視して、双子が元気良く言い切り、イオリは溜め息をついて玩具製の銃に手をのばした。


3.

「「お兄さん……」」
「イオリ……あんたほんと」

「うるさい!」

 イオリは玩具の銃を振り回しながら、顔を赤くして怒鳴った。
 画面には、ヴェルデリアの言葉で「負け」と書かれている。らしい。
 らしいというのは、文字を勉強中の瀬奈にはまだ読めなくて、双子に教えてもらったからだ。
 そんなことはともかくとして。
 これはひどい。
 相当だ。
 まさか、ゲームの射撃も最悪に下手だなんて!
「その哀れむような目を今すぐやめろ」
 イオリの目がじとっと据わる。
 瀬奈とヒルとヨルはさっと視線を反らした。
 まずい。
 可哀想だと思ったのもあるが、このままでは笑ってしまう。そうしたら、絶対こいつは帰る。間違いない。
「機械使った遠距離攻撃が苦手なだけで、的当てとかは得意なんだぜ。言っとくが」
 言い訳するように、イオリが言う。
「それがますます不憫だわ」
「ほんと」
「全くだよ」
 瀬奈と双子は口を揃えて返す。
 ああ、何て可哀想な人。
 イオリはフンと鼻を鳴らし、ポイと玩具の銃を瀬奈に投げた。
「そんなに言うなら、お前もやってみろ」
 慌てて受け取りながら、瀬奈は焦る。
「え、嫌よ。私、ゲームとか苦手なのよ。見てる方が楽し……」
「やれ」
「はい」
 睨みに負けてしまった。
 イオリの目が据わってて怖い。たまに見せるみたいに、背中から黒い靄が出ているような気がしないだけずっとマシだけど。
 瀬奈は小さく溜め息をついて、ゲームを始める。
「と、とにかく、撃てばいいのよね」
 じっと画面を見つめる。
 エイリアンみたいなものが地下道に出ていて、それを倒すというゲームだ。
「う、ホラーも駄目なのに……」
 画面も暗いし、やけにリアルで不気味だ。まだ3Dじゃないだけいい方だが。
 とにかく、撃ちまくった。機械から銃の音と敵の奇声が響きだした。

 結果は惨憺たる有様だった。
 爆笑しているイオリを見るに、イオリよりひどかったらしい。
「だから言ったじゃないの! ゲーム苦手だって!」
 あんまり笑われて、瀬奈は怒った。
「第一、リアルでも銃が下手なイオリに笑われたくないわ!」
 腹が立ったあまり、つい口を滑らせる。
 ぴたりと笑いがやみ、イオリの表情に険が混ざった。
「――あんだと?」
 ドスのきいた声に若干ひるみつつ、瀬奈は敵に立ち向かう。
「イオリよりマシだっつってんの!」
「てめ、銃使ったことねえ癖してよく言えんなっ」
「使うわけないでしょっ、怖いじゃないの!」
 きっぱり返す。
「だったら比べるべくもなく、お前のが下手だろーがよ!」
「使えもしないのに、下手も上手もないわよ」
 ギリギリと睨み合う二人を、双子がまあまあと諌める。
「いいじゃんどっちでも」
「そうだよ。結果変わんないし」
 ヒルが溜め息をつき、ヨルが馬鹿にしたように呟く。
 反射的に反論しようとした瀬奈とイオリの腕を、それぞれがぐいっと引っ張る。
「からかった僕らが悪かったよ」
「うん、ほんとごめんね。次はあっちに行こっ」
 謝られれば引くしかない。
 一応、年上のはずの瀬奈とイオリは、それでも腹が立つので押し黙った。目だけは睨み合っていたけれど。


4.

 双子がやって来たのは、対戦ゲームだった。
 お互いが向かい合う形に置かれたゲーム機に、双子が座る。
「これ結構面白いんだ」
 ヨルがにっと笑って言う。
「わたしはクイズ形式の方が好き」
 ヒルの方はそうでもないのか、そっけない反応だ。
 双子だから何もかも好みが一緒、というわけでもないらしい。そこは男女差だろうか。
 しかしゲーム自体は嫌いではないのか、二人ともあっさりゲームを始める。
 瀬奈はヒル、イオリはヨルの後ろに立って観戦する。
 何かのキャラクターと思われる動物もどきが、格闘戦を繰り広げている。あ、火を吹いた、すごい。
 さすがは双子。かなりの乱戦を繰り広げている割に、息がぴったりすぎて全くHPゲージが減っていない。
 そうしてじーっと見つめること十分。
「……あの」
 瀬奈は恐る恐る、ヒルに声をかける。
「なあに?」
 画面を見つめたまま、凄まじい速度で操作盤を操っている少女が問う。
「これ、いつまで続くの?」
「さあ。前は一時間くらい続いたかも」
「………」
 瀬奈は無言になり、ちらりとイオリを見た。声が聞こえていたらしく、苦い顔をしていた。
「え……と、私達、その辺ぶらついてるね」
「「んー」」
 声をかけると、双子からは気のない返事が返ってきた。


「あんな調子なら、あいつらだけで来りゃいいのにな」
 ゲームセンター内をうろつくのにも飽き、双子が見える位置にあるベンチでジュースを飲みながら、イオリが気だるげに呟いた。
「……うん」
 確かに。
 それに同じく疲れて返しながら、瀬奈は軽く溜め息をついた。まさかここまで引き分けるなんて。
 かれこれ一時間半が経とうとしていた頃合いのことだった。
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