明美は息を切らしてその異様な街を駆け抜けていた。
電柱が倒れてきたあの時、突然足元が抜けて、明美は地割れに落ちたはずだった。そこで気を失い、目を覚ますと見たこともない場所にいた。
その場所は大きな街であったが、人影は一つもなく、不気味な静けさに包まれていた。
明美は誰か人がいないかと街中を歩き回っていたが、ようやく見つけた人間もまた、街同様異様な風体だった。
酸素ボンベ付きの白いマスクを被り、体全体を同色のスーツ――まるで宇宙服のような――を着ていて、男か女かも分からない。
そんな人間が、明美を見つけるなり、くぐもった声で何かを叫び、こちらへ走り寄ってきたのだ。
当然、明美は逃げた。
それからその人間達に追い回されて街中を逃げ回っている。
「はあはあ……、何なの、一体!」
いつも冷静な彼女も、さすがに顔色は真っ青である。
足には自信があったけれど、土地勘のない場所を走り回ったせいで、いつの間にか袋小路に追い詰められてしまった。
白いマスクの人間が一人、ゆっくりとした足取りで近付いてくる。
明美は逃げようと背中を壁に押し当てる。だが、伝わってくるのは壁の冷たさだけであった。
「…………」
目の前のマスクの人間が、何か声をかけてくる。
「来ないで!」
何を言われているのか、全く聞こえない明美は青ざめた顔で叫んだ。
その言葉に、眼前の人間はしばし躊躇した後、まるでなだめるように両手を広げながら、また一歩近付いてくる。
「………っ」
明美はその人間の、分厚い白いグローブが自分に近付いてくるのを、まるで悪魔を見るような気持ちで見つめた。
そしてとうとう腕を掴まえられた時、明美は半狂乱になって叫んだ。
「触らないでっっ!!」
その瞬間、何かが空気中に弾ける凄まじい音が響き、金色の閃光が街を明るく照らし出した。